イギリス、紅茶のお話 (BRITISH CAKE HOUSE 誕生秘話)


イギリスと言えば、紅茶。とイメージされる方も多いのでは。
このイギリスでの「紅茶」というもの、実は「そんなもの、であり。こんなもの、である。」のだ。

日本では近年、紅茶が普及して親しみやすかったり話題になったり、中には一所懸命お勉強されてる方も多く、
私はあまり触れない事にしてきたのだが、そろそろ「違和感」にお気づきの方のご意見が聞こえる様になった事もあり、少し触れてみたいと思う。

私が紅茶にも興味を持ち、英国を訪れてから二十数年、高い意識で挑んだ当初、ショックと驚きの連続だった。

その頃のイギリスは、まだまだ紅茶の存在も大きく、昔ながらのティールームや日常のどこかのシーンにも生活
に寄りそうものとして、認識されていた気がする。
それにはいくつかの美しい空間や思い出もあり、まさにイギリスらしい風景だった

しかし、ショックというか、「こんなはずでは無い」ことが圧倒的に多い。

今、皆さんも紅茶と言えばイギリス、と思い訪れ、「えっ、なんだ、大したこと無い」や、「かつての栄光、遅れてるわ」
とか、「日本の方がすごい、まるでレベルが違うわ」なんて、思われた方も多いのでは。

それには、「ティーバックなのよ」や、「紅茶の種類もそんなに無いわ」とか、「茶園クラスなんて皆無、まったく勉強が足りないわ」なんてご意見でしょうか?それに茶器やテーブルウエアもひどすぎるし…、私の方が上ね。。。なんて。

そう。期待に胸躍らせた、訪英前の金銀溢れる光り輝く優雅な貴族の世界、、はどこに。
それどころか、日本、中国茶系、インド系、アフリカ系、お茶や茶園の研究・知識を持つ自分からしたら、何とも許せない
イギリス人の紅茶を取り巻く環境。少し見下した自分(深さも理由も知らないのに)がそこに確かに居た。

ところが、なのだ。
知識を盾に頭でっかちで、よく考えたらあまりそれは意味のある事でなく、ただの自己満足(顕示欲)でオタク。
人から、「紅茶の買い付けバイヤーの仕事なのか」、「どこかのティーブレンダーになるのか」と言われた時、
「わたしは何だろう」と急に、「知識など教養の一部にしかすぎない」という言葉が頭の中を走った。

もっと奥行きのある、偉大なる世界に気づいた時、はじめてイギリスの素晴らしさ、凄さを知ることになる。
それは紅茶に関する世界でも同じ。

人よりも知識を得たい、それが自分の支えになり、人の上に立てる。それで歴史や文化の重さを無知な自分が、
「知ったかぶり」をして、得意になっていた。なんとも恥ずかしい極みでなかろうか。

もちろん知識は必要、基本も必要、しかしそれを基盤として、もっと学ぶべき、知らなければならない点は他にある。
そんなものを辿り行くと、身に着けるべき経験と教養は、大海原のごとく美しくまた果てなき、そして深きものが喜び
として自分に注がれたものであると感じ始める。

資格や知識は小さな入り江の(田舎)博士にしか過ぎない。
その得た専門知識を踏み台として、果てなき海原に船を漕ぎだし、空を見つめ、深海に身を投じた時、その美しさも
恐ろしさも出会い、自身の未熟さ故に、自身の輝く原石の誉れを誰かが見つけ出してくれる事を待ち詫びる。

例えば、ソムリエならワインの産地や銘柄、特徴から始まり、高価なもの、価値のあるもの、流行を知り、作り手、技術
ワイナリーの特徴、やがてソムリエの技術や有名人の特徴、料理の知識、マリアージュ、顧客との疎通、現地視察、
テロアール、畑の違い、土着料理、世界各地の視察、料理との相性と知識、高次元の満足度、やがて自身好みの
ワイン制作、畑作り、美味しいワイン、評価をされるワイン、高価に売れるワイン。と辿るなどなど。

しかしそこはまだ途上。自分で料理を作り、良い食材を集め、やがて田畑を耕し農作物を育て、狩猟で肉を得、魚を
釣り、放牧された動物から酪農製品を作り、それらを総合して旬の料理を美味しく作り上げ、ワインと合わせる。
皿は自作の陶器に、自身の編んだレース、壁には描いた絵画、室内、建築、外構、庭・・・・もう狂いそう。。。

けれどこのどれを尽くしても、どれだけ知識があろうとも叶わない、実は追い求める何気ない「答え」がある。

それはそこに座って「美味しい」と言ってくれる人。
それが自分の子供だったり、若い人だったり、「この料理(お菓子・ワイン)美味しい」と心に響き、やがてその影響が
その子に将来の「志」や優しい「思い出」として「目標」になった瞬間、私の大海原の深海の原石は、抱き上げられるのだと思う。

だから教科書やテキスト、知識や資格、は海へ漕ぎ出すきっかけを与えてくれた船(道具)にすぎない。

自身を商売のアイテムに使われることなく(プロとして活躍できれば別)、また活躍できても商売上では達成できない、
近くに寄り添う、大切なひと、に夢や希望をひとつでも与えるきっかけになることを願う。

そこに英国の美しき豊かさ、そして優雅さがあるのだ。

ならばBRITISH CAKE HOUSEでは、そうして得た知識や経験を、ぜひ拡げていただくきっかけと、共に認め合える
仲間を作り上げる舞台として、皆様の窓口になろうと考えて誕生したのだ。
ここの英国菓子を中心とした講座には、そんな想いが込められている。

「手作りで、技術も心も、また背景や哲学など込められたささやかな愛」の形。
英国菓子があってこそ、紅茶は本質を極め、至上の美学の世界を堪能する。

だけど気楽に、誰にでも参加して頂きたいと願う。そこに美しきご自身の輝きを望み、仲間と手を取り合える
優しさをもつ方に、どんどんお集まりいただければ最高だけれど。
素晴らしい方々に、そんな理想を現実に叶えて頂いてるからこそ、言える言葉であると、付け加える。


2014.4
小澤桂一



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