イギリスの素晴らしさを考える 1
イギリスは素敵な場所で、憧れる方々も多く、ロンドンだけでない様々な魅力が溢れている。
実際に訪れる時は、何かしらの目標や希望を持ち、きっと胸を躍らせながら旅立つことだろう。
旅にしても生活するにしても、未体験の地には、たくさんの発見があるのだが、
ここではイギリスならではの発見法をご案内したいと思う。
私の場合はイギリスは大学在学中に初めて訪れ、その後も数度と渡英するのだが、当初感じていたイギリスとはだいぶ感想が
異なってくる。これはどこの国を訪れても探究心があれば同じ流れであると感じているが、イギリスには特有の発見がある。
これが実に奥深く心豊かに、イギリスの虜になってしまう一面であるのだろう。
体験記として私の見たイギリスを今回は記したいと思う。
テーマは「初めてのマナーハウス体験」
この存在、最近は雑誌などで紹介されることも多くなり、イギリス好きには気になる方も多いのでは。
それでも実際に滞在された事がある方は少数だと思うので、ここにその実情と面白さに触れたいと思う。
イギリスには多くのこうしたマナーハウスやカントリーハウスが今日、ホテルとして活用されてる所が沢山ある。
こうした場所の特徴は、広大な敷地を有し、地域の権力者や地主などが建てた立派な建築物があり、当時と変わらぬ内装や
空間が保存され、まさに英国の歴史が詰め込まれた生きた博物館であり、ここに実際に触れたり体験して、イギリスが集約
されてる部分に出会う事も多い。
しかし一方で、ここ数年でこうした施設の活用は世界規模の大手のホテル運営会社が管理・運営を開して、古きイギリスを
訪ねたはずが、最新のインテリアや快適空間になり過ぎて拍子抜けされてしまう方も多いかもしれない。
それからランクも存在し、大きければ豪華、小さいと家庭的とはならない、イギリスらしい面が存在することも必要な情報だ。
近年の快適さを求めれば、これも良しかも知れないが、かつての美しい姿を伝えたいと思うとき、それは残念である気もする。
なので少し前のお話をしたいと思う。初めて私がこうしたマナーハウスの滞在を初めてしたのは、20数年前、こうした施設が
ホテルの様な運営が試み出し初めて、当然日本ではまだ情報が知られていない頃の事である。
ほとんどの施設は当然オーナーが存在し、それぞれ細部に至るまで個性に溢れていた時代だ。
接客に関してはイギリスの伝統的サービスがスタンダート、インテリアも備品もアメニティーも、人材もまさに「英国流」であり、
最近流行のドラマ、ダウントンアビーさながらの気品と品格とホスピタリティーが随所に滲み出ていた。
その「英国らしさ」が実に重要なテーマとなる。
事前の情報を収集できていない若者が一人で挑む、イギリスの大人のわくわくする世界。でも緊張で強張っていた事を覚えている。
場所はコッツウオルズ、当然カーナビもなければ案内標識もない「不親切?」な英国流で、随分と道に迷った。
周りはひたすら丘陵地帯で、人家も車も出会わない、そこで手持ちの地図をよく見たら、その村の名前がその施設の名前であると
気づき、やっと場所を探し当てることが出来た。
到着すると門があり、そこから美しく丘に向かって道が伸びている。何ともイギリスらしい風景。やがて母屋が見え始めると、
劇的なまさにコッツウオルズの石造りの洋館が現れた。見た目では建物はそんなに大きく見えない。でも雰囲気は最高だ。
「マナーハウスともなれば豪華な玄関があるはず」と車で探すと、ようやく古く小さな裏口を発見。
その扉から女性が出てきたので「玄関はどこですか?」と聞くと、ここが玄関だと言う。(え、これ英国流?)
そこでどんな立派なドアマンが迎えに来るのかと思っていたら、この可愛くて素敵な愛らしい女性が一人でレセプション担当との事。
その後から10代後半と思われる可愛い男の子が出てきて、彼がドアマンでありベルであり、これが従僕だと後で分かる。
レセプションの女の子の本当に素敵な会話を楽しんでいると、少し風格のある男性が登場した。
これがまた紳士的で素敵過ぎる、怖そうな顔をしてるが、すごい真面目な顔で、とびきりの(彼にしては)ジョークを言っている。
この人物はそう執事である。
その後、応接に通されお茶を頂くのだが、まったくイギリスらしい素晴らしく落ち着く空間だ。
また、ここの地下には素晴らしいワインセラーがあると聞いていたので、どこにあるのかと見廻していたら、地下に行く階段から
作業員が登場し、私はなぜか「まずい」と思って目を逸らしたら、セーター姿のその男性が「今晩のお楽しみ」と言ってきた。
暗闇の地下から出てきた男に「夜のおたのしみ」、怖すぎる…。私は一人で宿泊するのだ。
しかし英国の屋敷、ことごとくみんなフレンドリーである。けれどとってもいい感じ。
さてイギリスの午後のお楽しみと言えば、一番はお散歩。そこでこの敷地を歩くこととする。
まずは建物前の庭に出てみる。まーここから見下ろす風景は、まさに英国田園地帯の美しさそのもの。素晴らしい。
それから門まで歩いてみる。美しい丘と、池と、木々と、そこに放牧された牛と馬と羊と、そして陽光とそよ風と鳥の囀りに私が一人。
自然が作った芸術作品のような枝ぶりの木々と、少し傾きかけた午後のやわらかな陽射し、風の音はゆるやかに葉擦れ音と草原
を梳かしながら清らかな薫を届け、水は煌めき、生きるものたちは、そこに居るのが当たり前の如くそこに存在する。
私は歩きながら、この風景を瞼と心と記憶に刻み込もうと、一足ずつ、大地を自身の心臓の鼓動に合わせる様に刻まれてゆく。
感情と感動と情熱と怒りと涙と、まるで昨日のことの様にその一瞬の感覚が今でも込み上げてくる。
部屋に戻り、ディナー前に身を清めたい気持ちになりバスタイムを楽しむ。せめて体だけ汚らわしいものを脱ぎ捨てたい想い。
ところがこのバスルームがまた劇的なのである。
イギリスらしく木と絨毯やカーテンの様な素材に囲まれた猫足と真鍮のシャワーが美しい快適なバスルーム。
しかし最大の感動、心の喜びは、その風景にある。
このバスルームからは先程のイギリスの素晴らしい情景が庭越しに壮大に拡がっているのだ。
夕刻のオレンジ色の光が差し込む、窓を開けたら、どこまでも透き抜ける風がバスルームに届く。
私は部屋に置かれた甘口のシェリー酒をバスタブに浸かりながら、イギリスの美しき空を透かしながら飲むのである。
そう言えばこのバスルームの絵付けされたシンクが好きで、BRITISH CAKE HOUSEのレストルームのシンクもそんな感じのものにした。
当時のこの部屋にはイギリスらしい「おもてなし」が普通にあった。
重厚な花柄のカーテンやベッドカバー、ソファーなどのお揃いのファブリック。花柄のやさしい壁紙。さりげないけどしっかりとした
主張のあるテーマを持った絵。アンティークの机やテーブル、椅子。
そして皿に盛られたフルーツと銀器。クリスタルのデキャンタに入れられた甘口シェリー酒と重厚なグラス。缶ケースに入れられた
香りの良い手作りビスケットに、キャンディーやポプリが盛られた器。それに優雅でやさしい生花。
これらはどのイギリスの宿を訪れても当たり前に用意されていたもの。
そして何よりこの部屋の窓から見下ろす緑の美しさはイギリスの最高のおもてなしかもしれない。
そういえば当時、この様なクラスのマナーハウス等に泊まると、部屋のカギは必要なかった。
それぞれのスタッフとゲストが信頼の上に成り立つ紳士淑女とゲストと従事する者との間で当たり前に成立していたのだ。
さていよいよお楽しみのディナータイム。
私もスーツと革靴、ネクタイを締めて、会場に向かう。
予約は19時00分。レストランに誰も居ない。スタッフも居ない。
「やはり英国流?」。私は「まったくどうしようもない」とその時に思った。やはりフランスや日本とは違うな、と。
それにしてもディナー大丈夫だろうか?誰もレストランに居ないこの経営状態。美味しいものなんて無いだろうな、、。
それでも誰も居ない、私はちゃんと予約してある。怒りながら館内を歩いてみる。そうしたら様子がどうも違う、と気付いた。
館内にはいくつかの素晴らしい部屋が存在する。その一つから人の気配を感じ入ってみた。すると、あら素敵。
きちんとした身なりの変わったゲスト達があちらこちらに座っている。
「サー」と声を掛けられる。「お待ちしておりました」と言われる。私は内心「ここで待つって、ここがレストラン?」と心配になる。
「ディナーを食べたいんですが」と伝えると。「失礼いたしました、すぐにご用意を」と言われる。
奥の方から紳士が「こちらへどうぞ」と私を呼んだ。「皆さんが見るじゃないかよ」と内心思った。恥ずかしながら行ってみると、何だか気品の
あるご夫妻とその男が話をしていた。「どちらからお越しですか?」「はい、日本です」「お一人ですか?」「はい、一人です」と。その男がご夫妻を紹介してくれた、何だか分からなかったが、そういう人らしい(笑)。
そうしたら「私はオーナーの〇〇です」と。
そう彼は、地下室から出てきたセーターの作業員だった。
どうなってるのか分からないイギリスの世界。なんで夜は正装して、ここに居るんだ? イギリスの不思議はまだまだ(次回へ)続く。
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